和歌山地方裁判所 昭和27年(行)11号 判決
原告 東たみえ
被告 和歌山県知事
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告が原告に対し昭和二十四年七月十三日附通知をもつて新宮市新宮五百七十二番地宅地二十六坪四合六勺についてなした換地予定地指定及び同月十五日附通知をもつてなした原告の換地予定地に対する使用開始日の決定はこれを取消す訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、本件宅地は原告の所有に属するところ、被告は昭和二十四年七月十三日新宮市特別都市計画の土地区画整理のため、右宅地の換地予定地として二十四坪八合四勺九を指定して来、ついで、同月十五日右換地予定地の使用開始日の決定を通知して来た。しかしながら、右は次のような違法処分である。すなわち、
一、新宮市は主務大臣により特別都市計画区域として指定されている。
特別都市計画法第一条によると、特別都市計画区域は戦争で災害を受けた市町村に限り主務大臣がこれを指定することができるのであるが、新宮市は戦争で何等の災害を受けていないのであるから、同市に対する右指定は同条に違反する無効なものといわねばならぬ。従つて該指定を前提とする本件換地予定地指定及び換地予定地の使用開始日の決定は違法である。
二、原告の換地予定地積は従前の地積に較べて一坪六合一減少されているが、その理由は隣接地である新宮七百五十三番地を過少地なりとし、大なる地積を有する右原告の所有宅地を割譲したものである。しかしながら、特別都市計画法施行令第十三条によると、過少宅地のため大なる地積の宅地に対し地積を減少して換地を交付する場合には大なる地積の宅地を、甲地区において二百五十平方米、乙地区において百五十平方米、丙地区において百平方米以下に減少することは出来ないことになつており、最少限度において百平方米、すなわち千八十九平方尺の地積は確保されているのであるが、原告の従前の宅地は九百六十二平方尺余りであるから原告の宅地こそ過少宅地なのである。しかるに右原告の所有宅地を大なる地積を有する宅地として隣接地のためこれを割譲し、更にその地積を狭少ならしめた本件換地予定地の指定は特別都市計画法第七条、同法施行令第十三条に背反する違法処分である。
よつて右換地予定地の指定並びに使用開始日の決定処分の取消を求めるため本訴に及んだと述べ、本件出訴に行政事件訴訟特例法第五条所定の出訴期間経過後になされたものであるから不適法であるとの被告の主張に対し、換地予定地の指定及びその使用開始日の決定等は換地処分の前段階的な処分であつて終局的なものではないから、同条所定の六ケ月の不変期間は換地処分時を基準として決すべきところ、本件においては未だ換地処分が行われていないから、本訴は同条に違反する不適法なものではないと述べた。
被告指定代理人等は主文同旨の判決を求め、その理由として次の通り述べた。
一、特別都市計画における被告の処分に対しては特別都市計画法第二十六条で準用する都市計画法第二十五条により、先ず訴願をし、然る後に出訴すべきものであるから、右の手続を経ない本件は行政事件訴訟特例法第二条に違反する不適法な訴である。
二、本件出訴は換地予定地指定処分のなされた昭和二十四年七月から行政事件訴訟特例法第五条第一項所定の六ケ月の不変期間経過後になされたものであるから不適法な訴である。
三、理 由
被告は行政事件訴訟特例法第二条によると、行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴はその処分に対し法令の規定により訴願、審査の請求、異議の申立その他行政権に対する不服の申立のできる場合にはこれに対する裁決その他の処分を経た後でなければ提起することができないと定められているところ、特別都市計画法又は同法に基いて発する命令によりてなす行政庁の処分に対しては、同法第二十六条で準用する都市計画法第二十五条第一項により、訴願をなすことができるのであるから、この訴願の手続を経ていない本訴は不適法であると主張するが、都市計画法第二十五条、第二十六条は都市計画法又は同法に基いて発する命令に規定した事項についての行政庁の処分につき、訴願ができると共に違法がある場合には行政裁判所に出訴することができ、ただ、訴願庁が主務大臣に当る場合の処分については主務大臣には訴願ができなくて行政裁判所のみに出訴ができる旨を規定したものであり、行政裁判所が既に消滅した現在においても右両条の趣旨は行政裁判所とあるを単に裁判所と読みかえてなお存続していると解すべきところ本訴は被告和歌山県知事が特別都市計画法第十三条により、昭和二十四年七月十三日附通知をもつて新宮市特別都市計画事業として土地区画整理のため、原告所有の同市新宮五百七十二番地宅地二十六坪四合六勺に対する換地予定地として、原告主張の土地二十四坪八合四勺九を指定し、ついで同月十五日附通知をもつて右換地予定地に対する使用開始日の決定をなした各処分が違法であるとしてその取消を求めるものであることは原告の主張によつて明瞭であるけれども、地方自治法第百五十条訴願法第二条によると、県知事がなした処分に対する訴願庁は主務大臣であるので、前示のように都市計画法第二十五条第二項により、本件のような県知事のなした処分については訴願が許されず、たゞ裁判所に出訴のみできるのであるから、この点に関し原告の訴を不適法とする理由がなく、被告の右主張は失当である。
次に、被告は、行政事件訴訟特例法第五条第一項によると、行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴は処分のあつたことを知つた日から六ケ月以内にこれを提起しなければならないと定められているのに、本件出訴は被告が原告に対してなした本件換地予定地の指定が、原告に対して通知せられた昭和二十四年七月から既に三年三ケ月を経過した後に提起されているから、この点においても不適法であると主張するに対し、原告は換地予定地の指定及びその使用開始日の決定等はその性質上終局的なものでないから行政事件訴訟特例法第五条所定の出訴期間は換地処分を基準として算定すべきところ、本件においては未だ換地処分がなされていないから、本訴は適法であると主張するけれども、換地予定地の指定、換地予定地の使用開始日の決定等はその後になされる終局的換地処分の前段階的な一連の手続的行政処分ではあるが、特別都市計画法によつて夫々国民の権利義務に直接具体的な影響を与える法律効果を賦与されておる各独立一個の行政処分であるから、これら処分の違法を主張して出訴の対象とする以上、よろしく行政事件訴訟特例法第五条第一項所定の出訴期間の関係においても、各処分につき、独立して該処分のあつたことを知つた日を起点として算定すべきものと解するところ、本件においては前示のように換地予定地の指定、換地予定地使用開始日の決定の通知を原告が受領したのは昭和二十四年七月中旬であることは原告の自陳するところであり、本訴が昭和二十七年十月十一日に提起されたことは本件記録に徴して明白であつて、その間実に三十八箇月を徒過していることが明瞭であるから、本件換地予定地の指定及び換地予定地の使用開始日の決定が違法であるとしても、これが取消を求める原告の本訴請求は失当といわなければならない。
よつて原告の本訴請求はこれを棄却するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 万歳規矩楼 宇都宮綱久 小畑実)